ハイデルベルクからシュトゥットガルトへ戻る。特急列車は途中から新線区間に入る。昨日乗った新幹線の車両ではないがそれでも早い早い。座席が満杯でしかたなく窓に面した通路の補助席に座っていたので余計に速さが速く感じられる。ふと何か違和感を感じて、なぜだろうと思った。少し考えてそのわけに気づき、僕ははっとした。
逆走している・・・・・・。
複線なのに進行方向左側に線路が見えているのである。時速は約200kmとして、もし正面衝突したら相対速度は400km!!
背筋を冷たいものが走り抜けるその瞬間、反対側の線路を走る対向列車とすれ違った。そう、道路に左側通行と右側通行があるようにヨーロッパでは国によって列車の進行方向も違っているのだ。フランスは日本と同じ左側通行(でも地下鉄は右側通行だった)、ドイツは右側通行。今回の旅行でもパリからここまでのどこかで左から右へ入れ替わっているはずなのだが、どこでどうやって入れ替わったのか今さらちょっと思い出せない。スイスは確か左だった。イタリアは・・・、たぶん左じゃないかな? オーストリアは、いや、これも左だったような気がする。とするとザルツブルクで乗り換えたときに入れ替わったのだろうか?
当然なにごともなくシュトゥットガルト中央駅に戻ってきた。実はこの町はダイムラー=ベンツ社(現・ダイムラー=クライスラー社)の企業城下町。中央駅の駅舎のてっぺんにもまるで冗談のように燦然とベンツマークが輝いている。豊田市もここまでひどくはない。
タクシーでベンツ博物館に向かったが、たしかこのタクシーはベンツでなかったと記憶している。だからというわけではないのだが、タクシーを博物館入口近くのバス停で降りて、ここから送迎用の無料バスで博物館に入る。もちろん言うまでもなくこれはベンツの大型バス。博物館までの間には、ゲートをくぐり、やはりベンツマークの輝く本社ビルの前を通らなくてはならない。織野くんは以前、このベンツマークを写真におさめようとしたら警備員に制止されたという。なぜだろう?やはりあのマークに何か秘密が隠されているのか?
トヨタ博物館は入館料を1000円とられるが、ベンツ博物館は無料である。入口はいってすぐのところに世界初のガソリン自動車と言われる、ベンツの三輪自動車とダイムラーの四輪自動車が置いてある。どこかでレプリカを見たような気もするが、これは正真正銘ほんまもんである。そこから始まってあとはもうベンツだらけ。リムジンからスポーツカーからクラシックカーから新車までもうベンツベンツベンツベンツ・・・。「Keiser WILHELM II」と表示された年代ものの銀色のベンツが置いてある。ドイツ第二帝国の最後のカイザー(皇帝)となったヴィルヘルム2世の専用車だ。そのとなりには「Keiser HIROHITO」と表示されたえんじ色と黒に塗り分けられたベンツがある。車の後ろには、赤い日の丸のついた日本の障子。よく見ればドアについているのは紛れもない16弁の菊の紋。この車は、我が国の先代の「カイザー」の専用車だったのだ。
![]() | ![]() 旧東独の国民車・トラバント |
また送迎バスで送られる。本社のすぐ前にたくさんのベンツに混じって旧東独の国民車「トラバント」がとまっていたのもミスマッチで面白かった。だらだら歩いてNeckerstadionという駅からSバーン(国電)に乗り再びシュトゥットガルト中央駅へ戻る。ドイツ鉄道ではSバーンは白地にオレンジの濃淡の帯、地方特急は白地にブルーの濃淡、特急は赤とピンクの帯が入っていて色でも区別がしやすくなっている。新幹線は特急と同じ色だが、帯の太さで区別がつく。こういう細かい技はなんとなくドイツ人らしい。そのままシュヴェービッシュ=ハルに戻って夕飯を食べに行く。なぜかギリシア料理店へ行き、串焼き肉とピラフとサラダを食べる。たしかこれを「ビフテキ」と呼んでいたような気がする。