YAGOPIN雑録

世界あくせく紀行

ヴェネツィア

● ヨーロッパ編・ベルンの風景


 Dear Passenger, On behalf of British Airways, I would like to apologise for the mishandling of your luggage today, and assure you that everything possible will be done to locate it and deliver it to you as quickly as possible.
 親愛なるお客様へ。英国航空を代表いたしまして、私は本日お客様のお荷物の輸送に手違いを生じましたことを陳謝いたしますとともに、捜索してお届けするためのあらゆる尽力をいたしますことをお約束申し上げます・・・。

 きわめて事務的な手続きの後で手渡されたこの仰々しい手紙を最後まで読んだ限りでは、なくなった荷物は、運が悪くなければ3日以内に届くんじゃないかな、ということしか分からなかった。初っ端から予定は狂ってしまうが、しばらくパリにいるしかなさそうだった。それもいいんじゃないかと思った。

 ところが僕らは翌日の夕方には隣国の首都にいたんだ。

フランス新幹線TGV
フランス新幹線TGV

 パリ北駅に程近い安宿に荷物が届けられたのは僕らがパリに着いてから7時間を経た、23時45分のことだった。僕らの荷物は飛行機を乗換えたロンドンに置忘れられていたのだ。予定は再度変わった。とりあえずパリを、いやフランスを出よう。でも、どこへ? その翌日、考えもまとまらぬうちに乗り込んだフランス新幹線TGVは、4時間足らずのうちに僕らをスイス・ローザンヌへと連れていってしまった。

 湖畔の都邑ローザンヌから、山間の小都市ベルンへと向かったのは、ベルンがスイス連邦の首都であったからではなかった。かといってほかになにか積極的な理由があったわけでもなかった。だいたい最初からベルンへ行くつもりならローザンヌを経由するのは遠回り以外の何物でもなかったりするのだ。

 でも、わざわざここまで来たのは、何かに引き寄せられたからなのだ、きっと。

ベルン市街を走る市電
ベルン市街を走る市電
噴水に立つ騎士の像
噴水に立つ騎士の像

 議会集中制国家の最高機関たる威厳に満ちたこの国の国会議事堂に近いユースホステルに泊まった翌日、こぬか雨の降るなかこの町を歩いてそう思った。首都でありながら世界遺産に登録された町・ベルン。石畳の道の両側を古風な石積みの建物がびっしりと並ぶ、その町の様子はとうてい現代のものとは思われなかった。無数の刺を天に向けたゴシック教会も、商店街も市庁舎も、よどんだアーレ川の水さえも、町のすべてが、重苦しい雨空に合わせるかのようにベージュがかったシックなグレーに統一されている。そんな中で13世紀、スイス独立の頃に造られたという、頭でっかちな三角屋根を乗せた時計塔の金色の文字盤と、11箇所ある16世紀製の噴水の上に乗っているカラフルな動物や人物の像が、少しばかりの彩りを添えていた。

 信じられないくらい落ち着いた町だ。ひょっとすると世界で一番しずかな首都かもしれないと思った。車通りもけっして多くない。ときおり同じモスグリーンに塗られた路面電車や連結バスが、ごろごろと石畳の上を転がっていく。ただひとつ、不満があるとすれば・・・・・・メシが高い! かつ、うまくない。マクドナルドのハンバーガーが3フラン10サンチームもするんだぞ。日本円にすれば300円近い。まさか日本より物価の高い国が世の中にあったなんて。・・・とりあえず、この国は貧乏旅行にはそぐわない。天気がよければ登山列車でアルプスのユングフラウに登ることも考えていたけれど、この小さな都をひとまわりしたらもうさっさとこの国を出てしまおう。少し惜しいことではあるんだけれども。

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