YAGOPIN雑録

世界あくせく紀行

ヴェネツィア

● ヨーロッパ編・ピサの風景


 フィレンツェを去る日が来た。サンタ=マリア=ノヴェッラの駅前で朝食を済ませ、一番左のホームから出るピサ行きのローカル列車に乗り込んだ。

ピサを流れるアルノー川
ピサを流れるアルノー川
ピサ大聖堂
ピサ大聖堂

 ピサはフィレンツェからアルノー川を下ったところにある町である。紀元前1世紀から存在するといわれる町で、中世には河港につくられた都市ながらヴェネツィア、ジェノヴァ、アマルフィと並ぶ「4つの海の共和国」の一つとして地中海を席巻した海洋国家だった。しかしイタリアでの教皇派と皇帝派の争いの中で皇帝派についたピサは、皇帝フリードリヒ2世の死によって斜陽化した皇帝派とともに没落して、やがて内陸都市国家フィレンツェに併合されてしまう。住宅街の中から突如として飛び出した巨大な白亜の大聖堂と、かの斜塔は、ピサがもっとも繁栄していた11世紀から14世紀にわたって造られたものだった。これだけの巨大建造物を造れるほどの富がこの町にあったとは、今のピサを見る限りでは申し訳ないけれどもにわかには信じがたい。

 ガリレオの時代でなくてもつい最近まで斜塔には登ることができたそうだが、今では危険防止のためということで周囲には金網が張られ近くに寄ることもできない。塔の建造中から始まった地盤沈下は現在も続いていて、倒れないように片側にはコンクリートの重りまで縛り付けられている。それでももう100年もしないうちに倒れるとまで言われているらしい。

斜塔付近へは立入禁止
斜塔付近へは立入禁止
斜塔には重りが縛り付けられている。
斜塔には重りが
縛り付けられている。

 ピサでピザを食べた後、今度は地中海沿いに列車でローマへ向かう。イタリアは南北の経済格差を反映して南に行くほど治安も悪くなると言われている。ナポリほどとは言わないまでもローマもあまり治安の良い都市ではないらしい。気をつけねば。

 などと言ってる先から久世くんがスリに遭った。列車が込んでいたので僕らは通路の補助席に座っていたのだが、通路を通り過ぎた男にコートの内ポケットを探られたという。ポケットには何も入っていなかったのだが気分は良くない。青く光る地中海を眺めながら気分を治していると、やがて座席が空いて三人ともコンパートメントの中に入ることができた。窓際の席にはちょっとケバ目のおばちゃん二人、もう一つの席には海兵らしい若い軍人が座っている。おばちゃん二人はまったくくつろいだ様子でおしゃべりをしながら煙草を吸い出し、イタリア語で久世くんの見ていたガイドブックを見せてくれといいだしたり、車内販売が通ると、あんたたちも飲むかい?とか言いながらコーヒーをおごってくれそうになったりで、なかなか陽気なおばちゃんたちだった。ナポリまで帰るところらしく、装身具をじゃらじゃらつけていかにも田舎の金持ちおばちゃんといった感じだったが、2等で行くあたり実はけっこうケチなのでは、などと列車を降りた後でも僕ら三人の中では話題になっていた。

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