YAGOPIN雑録

世界あくせく紀行

ニューヨーク

● アメリカ編・アムトラックの駿足

6日目・11月13日(水曜日)

ペン駅
ペン駅

 昨日はいろいろあって疲れたので少し寝坊した。今日の午前中に見るはずだったMoMAを昨日見てしまったので特に予定もない。朝飯も食わずにバスでペンシルバニア駅、通称ペン駅に向かう。ペン駅は地下駅なので地上には円筒形の建物が建っているだけなのだが、この建物がいわゆるマディソンスクエアガーデン。NBAの試合なんかをやるところなんだそうだ。切符の買い方は昨日確認しておいたので何の戸惑いもなく自動券売機にビザカードを通し行き先と枚数とを指定する。ほら、簡単に買えた。ニューヨークからワシントンまで60ドル。距離は360kmだから当時のレート(1ドル=113円くらい)で換算するとJRより 1000円くらい高い計算になる。オフ・シーズンでこれだから、オン・シーズンだともっと高くなってるはずだろう。もっともJRの場合、この距離だとふつうは特急料金が加算されて、もっと高くなっているんだろうが。

 こちらの鉄道の場合、特急料金というものはない。というか、アメリカでは長距離輸送を行なう主体と都市圏輸送を行なう主体、および貨物輸送を行なう主体がまったく別であるのが普通なのだ。日本のようにJRがL特急も通勤電車もみんな運行しているのとは全然ちがっている。長距離列車を運行しているのが有名な「アムトラック」という企業体で、これは正式にはアメリカ鉄道旅客輸送公社という。都市圏の通勤列車は、僕のみたところ州か、公営企業が運営しているように見えた。たとえば、ニューヨーク都市圏ではNJトランジット、ワシントン都市圏ではメリーランド運輸局の運営である(NJはたぶんニュージャージー州の略語だろう)。そしてこうした長距離列車や通勤列車の走っている路線は、民間の貨物鉄道会社が保有している場合が多く、旅客会社はその線路を借りて列車を運行しているという形になっている。JRの旅客会社と貨物会社の関係とはまるで逆になるが、アメリカの場合、鉄道は貨物が主体で、旅客はおまけみたいなものだから、こういう形がいちばん合理的ということなのだろう。

 ニューヨークからワシントンへは、1時間に最速列車の「メトロライナー」(所要約3時間、表定速度約120km)が1本と、主要駅停車型の「ノースイーストダイレクト」(所要約3時間30分、表定速度約100km)が1本というのが基本形である。「メトロライナー」は電化されているニューヨーク~ワシントン間のみの運行だが、「ノースイースト」の方は非電化区間のニューヨーク以北から来る列車が多い。ちなみに現在、ニューヨークとボストンの間が電化工事中で、完成すると「メトロライナー」に代わってTGV型の「アメリカン・フライヤー」という特急が走ることになっている。今の列車は殆ど機関車牽引である。

 11時発のメトロライナーに乗れば、向こうに14時前に着くのだが、メトロライナーには特別料金が必要なので、次のノースイーストダイレクトにする。ノースイーストにはペンシルバニアでメトロライナーに抜かれる列車もあるが、この列車には途中の追い抜きはない。列車の発車時刻までさっき食い損ねた朝飯を食べたり、駅の構内をぶらぶらしたりして過ごす。駅はきれいだ。はっきり言って日本の駅よりもきれい。ホームレスの多いはずのニューヨークなのに、ここではぜんぜんみかけない。発車の20分前になってようやくホームが決まり、階段の前にある改札を通って地下ホームに降りる。ほとんど無ダイヤ状態ときくアメリカの鉄道だが、さすがにニューヨークの周辺はすべて定刻の到着である。UNRESERVED、すなわち自由席だが座れた。席は半分くらい埋まっているだろうか。日本の特急列車よりはゆったりしている。発車。地下駅を出て、いったん天井がとぎれるが、またトンネルの中。車掌が検札にきて、その乗客の行き先を示すカードを荷物棚のところに挟んでいく。飛行機みたいな緊急時のマニュアルが座席の後に入っていて、窓からの脱出方法が書かれている。窓は固定式だが、ガラスを外せる非常用の窓がいくつかあるらしい。窓が閉まっているせいか、室内は静かである。が、トイレに行こうとデッキに出たら、ごうごうとものすごい音がする。かなりのスピードで走っているようだ。景色が後に飛んでいくが、たいした景色ではない。殺風景。農地が少なく林と荒地ばっかり。ときどき町がある。ニューアーク、メトロパーク、トレントンに停車。林立する高層ビルが視界に入るとフィラデルフィア。次はウィルミントン。アバディーン。ちょっとだけ海が見えてバルティモア。バルティモア=ワシントン国際空港。ニューカロリントン、そして終点ワシントン=ユニオン駅。豪壮な駅舎である。首都の玄関という威容が感じられる。

 さて帰りの切符を買っておこう。あさっての宿はとっていないので夜行列車を使いたい。できれば寝台がいい。伝えたい内容をすべて紙に書いていざ切符売場に乗り込む。I want to reserve a ticket. 太った黒人の駅員のおばさんはすべて了解してくれて、希望どおりの切符を発行してくれた。今度は寝台料金がかかっているし、距離も長いのでふたりで 292ドルかかった。うち寝台料金が 160ドルでこれはけっこう高い。どんな寝台車なのかは乗ってのお楽しみである。

ワシントン地下鉄のチケット
ワシントン地下鉄のチケット

 地下鉄に乗り換える。アムトラックの駅も豪壮だが、地下鉄の駅もやっぱり広く、大阪の御堂筋線の駅のように大きなドーム天井になっている。コンクリのセグメントがむき出しで、独特の雰囲気だ。近代的でカッコいいけど、照明が間接照明で薄暗いのはどうかと思う。チケットはプリペイドカードをそのまま改札に通す方式だが、東京のメトロカードのように金額が決まっているわけではなく、自分で金額が指定できる。もちろん初乗り運賃のカードも買える。

ワシントン地下鉄
ワシントン地下鉄

 レッドラインで5駅目のデュポン・サークル駅で降りる。駅の構造はどこも同じである。駅の出口も大きなドーム屋根になっている。今晩の宿は中山が前に泊まって気にいったホテル。駅のすぐ近くにある広くてきれいなホテルである。荷物を置いてすぐ買物に出る。近くのドラッグストアはクリスマス商品ばかりでろくなものがなく、まともな食い物がおいてない。カップラーメンに手を伸ばしかけたが、まずいから止した方がいいと中山に制止された。本屋に入る。なにか熱心に立ち読みしている人がいると思って、ひょいと見上げると「ゲイ・コーナー」と書かれていて、びっくりした。別に何を買うわけでもなく、今度はコーヒー・ショップに入る。中山お薦めの「スターバックス」というチェーン店でこんど日本にも進出するらしい。レギュラーコーヒーはいちばん小さいのでも「tall」($1.35)で、結構分量が多い。コーラと違って、コーヒーの量が多い分には別にかまわない。飲みおわってまた街をぶらぶらする。このへんは大使館なんかもある高級住宅街で、中東の人らしいおじさんなんかも歩いている。しつこいホームレスのおばさんがいてちょっと困る。その先にあるスーパーで、おいしそうなパンにようやく出会えた。ケーキ売り場のおねえさんがきれいなひとだったような気がする。思わずエクレアなんか買ってしまう。

 夕飯はホテルのレストランで食べることになった。僕らのほかには日本人らしきおじさんがひとりいるだけ。けっこうムーディーなレストランである。窓から通りの街路樹が見える。なんとなくパリに似ているような気がする。広場から放射状に延びる街並も、高い建物が少なくて歩道の広いの並木道が続いているのも、パリの風景と共通するように思う。ビールで乾杯する。なに食ったか覚えてないが、25ドルもかかった。

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