YAGOPIN雑録

世界あくせく紀行

ムグンファ号

● 釜山・慶州編・5


石窟庵の入口。山の上にある。
石窟庵の入口。山の上にある。

 仏国寺から足を延ばして、さらに9kmほど離れた石窟庵(ソックラム)を見に行くことにする。石窟庵は石仏寺とも呼ばれ、やはり新羅の宰相・金大城が創建したものと言われている。金大城は現世の父母のために仏国寺を重建し、前世の父母のために石仏寺を建てたのだそうだ。仏国寺と石窟庵を往復するシャトルバスに乗り込むと、突然後ろから肩をたたかれた。振り向くと、さきほど食堂を出るときにすれ違った観光客である。関西弁でまくし立てる彼の話を聞くと、金さんというその彼は大阪生まれの在日韓国人で、ご先祖はこの慶州に住んでいたのだという。韓国を訪れるのは初めてだが、韓国語は「自然に覚えてしまった」そうで、「さっきの食堂のおばちゃんは『あんたの韓国語は関西弁の韓国語だ』とか言わはりました。」などと言って笑った。バスはカーブの続く山道を勢いよく登っていき、20分ほどで終点に着いた。仏国寺同様に「世界文化遺産 石窟庵」と彫られた大石が置かれている。眼下には厚い雲に覆われた山々と、山間に広がる盆地が見える。石窟庵に行くのにはここで入場券を買って5分ほどなだらかな山道を歩かなくてはならない。

 石窟庵は石で組まれた洞窟の中に仏像を納めた寺院である。1900年ごろに日本人の郵便配達人が雨宿りをしていて偶然見つけたものとも言われ、また、その話は日本人が作った作り話だとも言われる。雨宿りのために駆け込んだ石窟に1000年以上も昔の仏像が人知れず鎮座していたというのはとても神秘的で魅力的な話だが、そもそもこんな人里離れた山奥の誰に郵便を届けにいったんだという疑問も残る。石窟庵の前面は建物に覆われており、外からその姿を見ることはできない。建物の中はガラスの板で仕切られており、その向こうに高さ3.4mの如来像が坐っているのが見える。如来像の上は石で組まれた半球形のドームとなっており、像を囲む壁面にも小さな仏像やレリーフが彫られている。如来像もドームも壁面もすべて花崗岩の褐色がかった白に統一されており、この石窟庵では極彩色の仏国寺とはまったく別の世界観が感じられる。如来像は凹凸を控えめに穏やかな曲線で構成されており、韓国仏教美術の最高峰と称されるものである。ガラスの奥、如来像の前では10人ほどのお坊さんが何度も立ったり伏したりして礼拝を続けている。

外から見た石窟庵。丸く土が盛られている。(内部は撮影禁止)
外から見た石窟庵
丸く土が盛られている。
(内部は撮影禁止)

 建物の外へ出ると、ドームのある場所の上は丸い土盛りになっており、先にドームを組んでから上に土を盛ってこの石窟庵を造ったことがわかる。「昔はガラスなんかなくて、石窟の中まで入れたそうですわ。」と金さんが言う。確かにガラス越しではなんとも物足りなくありがたみも薄い感じだが、昔はシャトルバスもなくて下から歩いて登ってきたのだそうであるから、まあバスで気楽に上がって来られるぶん、ありがたみも薄くなっていると思えばしかたがない。山の上なのでますます寒い。やっと帰りのバスが来てまた仏国寺に戻った。金さんはこれから仏国寺を見に行くということなので、ここでお別れである。僕は市街に戻るバスに乗った。バスの中でこんどは「小銭がないので、1,000ウォン(100円弱)貸してもらえませんか。」と日本語で尋ねられた。10日ほど韓国のあちこちを見て歩いているという日本の大学生で、旅の間、宿はないかと尋ねたら自分の家に来いと言われたり、韓国の人にはだいぶ親切にしてもらったとうれしそうに話していた。終点のバスターミナルでその大学生とも別れ、1,000ウォンはそのままあげてしまった。

 時刻は16時。まだ市内観光を続けられる時刻だが、寒くて疲れたので釜山に戻る高速バスの切符を買ってしまった。市街にある古墳や博物館などはまたの機会に見たいと思う。慶州からの高速バスは釜山行きのほかにソウル行きや大邱行きなどもある。ターミナルからしばらくのところにソウルと釜山を結ぶ京釜高速国道の慶州インターチェンジがある。韓国の東海道線にあたる京釜線は慶州を経由しないが、韓国の東名高速である京釜高速は慶州を経由しているのである。慶州と釜山の間の交通も、1日5往復の鉄道を使うよりは1時間に1本の割合で出ている高速バスの方が主流となっている。しかし将来はソウルと釜山を結ぶ高速鉄道の駅が慶州にも造られる予定となっているので、鉄道とバスの立場が逆転することもあるかもしれない。

釜山のバスターミナル
釜山のバスターミナル

 韓国の高速道路は京釜高速国道のほか、京仁(ソウル~仁川)、湖南(大田~光州)、南海(釜山~光州)、嶺東(ソウル~江陵)、中央(春川~大邱)など多くの高速国道があり、さらに新路線があちこちで建設中である。高速バスも発達しており、さっきの大学生もほとんど高速バスで移動していたと言っていた。交通量はけっこう多いが渋滞するほどではない。行きは列車で2時間かかったのにバスは出発から1時間後には釜山のバスターミナルに着いてしまった。確かにこれでは列車はバスに太刀打ちできないだろうが、しかしこのバスターミナルは釜山の郊外、地下鉄1号線の終点・老圃洞(ノポドン)駅付近にある。中心部に出るのには30分くらい地下鉄に乗らなくてはならないのだった。

前へ ↑ ホームへ 次へ
    5