YAGOPIN雑録

世界あくせく紀行

ムグンファ号

● 釜山・慶州編・2


 釜山駅で用事を済ませて、まずはホテルの場所を確認しようかと思ったが、うっかり反対方向の地下鉄に乗ってしまったので、そのまま西面(ソミョン)という駅まで乗っていった。小腹が減ったので地下鉄の駅とつながっているロッテ百貨店のレストランに入ることにする。これからどうしようか。注文した冷麺が運ばれてくるまで、駅でもらった地下鉄の路線図を眺めていると、ガイドブックでは建設中となっていた地下鉄が広安里(クヮンアンリ)のビーチ近くまで既に開通しているらしいことが分かった。よし、それなら広安里まで行ってみよう。

 釜山の地下鉄は、この5月に訪れたソウルの地下鉄とよく似た感じで、大きな銀色の自動券売機で購入したパリ地下鉄風の切符を、遊園地の入り口のようなターンテーブル式の自動改札に通して乗り場に行く。近々JR東日本が導入する予定の非接触式プリペイドカードがここでは既に導入されているらしく、カードをバッグや財布に入れたまま自動改札機にあてて通っていく人が多い。路線は市の北部から南西部へと走る1号線と北西部から東部へと走る2号線があり、別に3号線の計画もあるようである。西面は1号線と2号線の乗換駅だが、新しい方の2号線のホームに下りていく。若草色のラインを巻いたステンレスボディの電車に20分ほど揺られ、終点の金蓮山(クムリョンサン)駅に着く。2号線はこの先さらにリゾート地の海雲台(へウンデ)海水浴場方面へ延伸の予定だが、路線図には「未開通」の文字が書かれている。

広安里のビーチ。建設中の広安大橋が見える。
広安里のビーチ
建設中の広安大橋が見える。

 地下鉄の駅から出ると左側に青い海が見えた。緩い坂を下っていくとすぐにビーチに出られる。地下鉄に乗って海水浴場に行ける町なんて日本にはないように思う。釜山広域市の人口はおよそ400万人。そんな大都市の中にあるビーチだから、お台場の人口砂浜のようなものを想像していたのだが、遠くまで長く続く砂浜は白く美しく、海も透き通っていてとても綺麗なのにはびっくりした。9月半ばの平日ということで人出は少ないが、日差しは強く、まだまだ夏のようである。白人の男性が数人、ウインドサーフィンをしている。砂浜にハングルで書かれた落書きも夏らしさとエキゾチックさを演出している。靴とソックスを脱いでズボンをまくり、韓国では「東海(トンヘ)」と呼ばれている日本の反対側の日本海に足をつけてみる。湾の入り口には「広安大橋」という巨大な吊り橋が海をまたいで建設中で、この橋には展望施設なども設けられる予定だそうだ。砂浜の先のほうにはリゾートホテルらしい白い高層建築が建ち並んでいる。海沿いのマクドナルドの2階で「アイスコピ(アイスコーヒー)」を飲みながら、しばらくビーチの風景を眺めた。

釜山タワー
釜山タワー

 地下鉄で釜山港近くまで戻り、インターネットで予約したホテルにチェックインする。ホテルのすぐ裏が龍頭山(ヨンドゥサン)公園という公園になっており、その上に京都タワーの兄弟のような釜山タワーがそびえている。その展望台に上ると、島と半島の間の奥まった場所に入りこんでいる釜山港と、釜山港に続いて山々の間に分け入っていくように広がっている釜山市街が見渡せる。韓国調の建物であるコモドホテルと、高層の釜山ロッテワールド(この中にロッテ百貨店やホテル・ロッテがある。)が目に付くくらいで高い建物は少ないが、港の近くに新しく超高層ビルを建築する計画があるそうだ。展望台から降りて、ごたごたと数え切れない店が集まる街・国際市場の中に迷い込み、海産物の並ぶチャガルチ市場をちょっとのぞく。この近辺は釜山でも古くからの市街地と思われ、こうした下町的な雰囲気も残っているが、その一方で、すぐ隣の街区には韓国ではあまり見かけないスターバックスがあったり、携帯電話の巨大な広告から人気アイドルのイム・ウンギョンが通りを見下ろしていたりして、町の表情に変化を与えている。メインストリートには、飲食店のほかブティックやヘアーサロン、コンビニなどが並んでおり、歩いているのも全体に若い人が多いのだが、彼らに交じって、果物などを満載したリヤカーを引くおばさんも通りを行き過ぎる。

黒い土鍋に入っている参鶏湯を右の取り皿によそって食べる。
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黒い土鍋に入っている参鶏湯を
右の取り皿によそって食べる。

 そろそろ日が暮れてきた。夕飯には、『ビートル』の船内誌のコラムで読んで食べたくなった「参鶏湯(サムゲタン)」を食べに行く。店に入ってビールと参鶏湯を頼むと、まず何皿ものキムチ、ナムルその他の付け合わせが出てくる。適当につまみながらビールを飲んでいると、やがてぐつぐつと煮立った参鶏湯の土鍋が運ばれてきた。参鶏湯は、中にひな鶏1羽を丸ごと煮こんだスープである。スープは白く、韓国の料理にしては珍しく辛くない。切り分けて小皿によそうと、鶏の腹の中にはもち米や栗やなつめやクコの実などが詰められている。漢方薬なども入っていて韓国では産後や大病の後にもこの参鶏湯が勧められるのだそうだ。ひな鶏とは言え鶏1羽はかなりのボリュームがあり、11,000ウォン(約1,000円)で、もうこれ以上は食べられないほど満腹になった。

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