YAGOPIN雑録

世界あくせく紀行

ムグンファ号

● 釜山・慶州編・4


 翌日は釜山から古都・慶州(キョンジュ)へ向かう。釜山から慶州までは100km以上離れているが、両都市を結ぶ東海南部(トンヘナムプ)線の列車は急行の『無窮花(ムグンファ)』号と普通列車の『統一(トンイル)』号を合わせて1日わずか5往復しかない。うまく切符がおさえられるかちょっと心配だったが、昨日のうちに釜山駅で慶州までの『無窮花』号の指定券を購入することができた。

釜山駅停車中の無窮花号
釜山駅停車中の無窮花号

 釜山駅からは東海南部線のほかソウルに向かう京釜(キョンプ)線の列車が発着する。ソウルと異なり通勤列車はなく長距離列車ばかりである。釜山駅は1階がソウル行きの特急『セマウル』号専用の切符売り場・待合室・乗り場となっていて、急行の『無窮花』号と普通列車の『統一』号は3階へ上がらなくてはならない。待合室には日本のターミナル駅でも見られるような大型の表示板があって列車番号と行き先と発車時刻と乗り場が表示されている。予約した『無窮花』号江陵行き544列車の出札が始まったことを示すオレンジ色のランプが点滅し始めた。ホームに下りる階段の手前で改札を受ける。列車は、白と黄色と緑色に塗り分けられたディーゼル機関車を先頭に6両ほどの客車で構成されている。客車は白い車体の窓回りだけがオレンジ色と黄色に塗られており、窓が大きくて一見するとJRの特急電車のようである。車内もJR特急のようなリクライニングシートだったが、ちょっとがたが来ているような感じはした。駅の構内にはいちばん速い『セマウル』号用のステンレス車体のディーゼルカーが停まっているのも見える。

きっぷ。「記念にください」とハングルで書いたメモを駅員さんに見せたらもらえた。
きっぷ。「記念にください」とハングルで書いたメモを駅員さんに見せたらもらえた。

 定刻の9時10分に列車はゆっくりと動き出した。機関車連結の列車だからだろう、加速が非常に悪い。しばらくは幹線の京釜線の線路を走っていたが、1駅目の釜山鎮(プサンチン)駅で京釜線から分かれて単線のローカル線に入る。ローカル線とはいえ、まだ釜山のど真ん中を走っており、やがて釜山ロッテワールドの高層ビルが近づいてきた。これだけ都心部を走っているのだから通勤路線として活用すればよいと思うのだが、この線路のすぐ近くを地下鉄が走っているため、通勤輸送は地下鉄に任せているということなのだろうか。片側4車線はあるだろう幹線道路と並んでごとごとと町の中を走り、いくつか駅に停まったり通過したりしながら海雲台駅に着く。ここはビーチに沿ってパラダイスホテルやマリオットホテルなどが立ち並ぶ国際的リゾート地であり乗客も多かった。座席はほぼ満席だが、この『無窮花』号では指定席券のほかに「立席券」を販売しており、この「立席券」を持っている乗客は指定券を持っている乗客が来るまでとりあえず空いている席に座ることができるのだそうだ。

海雲台付近の車窓風景。遠くに五六島
海雲台付近の車窓風景。遠くに五六島

 海雲台を過ぎると列車は海岸沿いを走るようになる。今までの大都市の風景がウソのように緑の松と青い海ばかりの車窓風景となった。向こう側の半島の先に、島が5個あるように見えたり6個あるように見えたりするという五六島(オリュクド)が見えるが、遠いので何個あるかよく分からない。列車はスピードを上げていき松亭(ソンジョン)駅を通過した。松亭海水浴場が見えたのを最後に海は見えなくなり、谷間に開けた田圃の中を走るようになる。日本の多くの田圃は土地改良事業の結果としてまっすぐ長方形に仕切られているが、ここではほとんどの田圃が思い思いの曲線によって仕切られている。佐川という駅を過ぎたあたりでまたちょっとだけ海が見える。傾斜が緩く棟が少しカーブした家々の屋根が続く。トンネルをくぐる。貨物駅が見える。10時30分ごろ蔚山(ウルサン)駅に着いた。広い駅の構内には自動車運搬用の貨車がたくさん置かれている。現代(ヒョンデ)自動車の工場がある蔚山は、朝鮮戦争後に工業都市として急激に成長した町である。人口は約100万人あり、1997年には釜山・大邱(テーグ)・仁川(インチョン)・光州(クヮンジュ)・大田(テジョン)と並ぶ6番目の広域市(日本の政令指定都市のようなもの)に昇格している。

慶州駅のホーム
慶州駅のホーム

 蔚山駅を出発し、川を渡った対岸に広大な自動車工場があった。車内販売が何度か通るが、みんな紺色の制服を着たおじさんたちである。慶州まであと少し、というころになって、急に天気が悪くなり雨が降り出した。古都らしく線路脇に小さな古墳らしい半球状の塚があったりする。仏国寺(プルグクサ)駅を通過。雨は止んだがどんよりとした空模様のまま11時13分に慶州到着。昨日は暑いくらいの陽気だったが、雨が降ったせいか駅のホームに降り立つと今日は思いのほか寒い。遠足らしい小学生くらいの子供たちがホームに整列しているのを横目に改札口の方へ歩いていった。

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